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自分にとってのザ・ゴール

2025年10月18日

会社で「カイゼン」についてのライトニングトークっぽいものをしたときにザ・ゴールを紹介した。

正直なんか偉そうなこと言ってしまったなぁとか、ちゃんと伝わってるかなぁとか、あれこれ悩んでしまったりしていたが、ありがたいことに「本借りてみました!」と言ってくれた同僚がいて、ひとりでもそういう人がいてくれるならやってよかったなと思った。

とはいえ、自分もこの本を読んだのがだいぶ前だったので、改めて読みつつ読書ノートを残そうと思う。

企業の真の目的とは「お金を稼ぐこと」

ちゃんとお金を稼げているかどうか、それを確かめるためには以下の3つを指標とする。

  • 純利益
  • 投資収益率(ROI)
  • キャッシュフロー

純利益

企業が一定期間に「どれだけお金を稼いだか」を表す指標で、売上からすべての費用(原材料費、人件費、設備費、税金など)を引いた最終的な利益を指す。

ROI

どれだけ効率的に資本を使って利益を出しているか」を示す指標。つまり投資した資金に対して、どれだけの利益を得たか。

ROI = 純利益 ÷ 投資額

ここで投資額は(設備投資 + 在庫 + 売掛金)- 買掛金のように「利益を出すために必要な資産の総額」を意味する。

キャッシュフロー

会社に「実際にお金が入ってくる流れ(現金の増減)」を示す指標。個人的にはここが一番よく分からなかった。どうやら「会計上利益が出ているように見えても、現金は実は減っている」ということが起きるらしい。

たとえば在庫を増やすと「帳簿上の利益が一時的に多く見える」ことが起こる。同じ製品を製造している工場が2つあったとして、生産数を変えてみる。

内容A工場B工場
生産数100個50個
売上数50個50個
1個あたり売価1万円1万円
1個あたり原価5,000円5,000円

どちらの工場も売り上げ数は50個だが、A工場のほうは100個作ったので、50個余る(在庫となる)。

項目A工場B工場
売上高50万円50万円
売上原価(売れた分)25万円25万円
粗利益25万円25万円
製造費(実際に使ったお金)50万円(5,000円×100個)25万円(5,000円×50個)
会計上の在庫資産+25万円0円
会計上の利益25万円25万円

在庫は会計上では「資産」として扱われる。この表を見ると、A工場もB工場も利益は同じ「25万円」になっている。

粗利の計算式を売上原価ではなく製造費にすべきではないかと思ったが、会計の基本ルール(発生主義会計・費用収益対応の原則)というのがあるらしい。

ただし、キャッシュフローを見てみると、

現金の動きA工場B工場
売上入金+50万円+50万円
原材料費など支出−50万円−25万円
現金残高0円+25万円

A工場よりもB工場のほうが現金は多くなっている。A工場のほうはB工場よりも余分に在庫を持っているが、それは売れればの話である。だからキャッシュフローをちゃんと見ないといけないという話。

財務指標を実務指標に置き換える

純利益、ROI、キャッシュフローは財務指標であり、現場からすると何をどう改善すればそれらの指標が良くなるのか分からない。そこで実務的指標として新しく3つの指標が登場する。

現場で操作可能な指標定義意味
スループット販売によって得られたお金 - 材料などの変動費売れて初めて会社に入るお金
在庫販売のために会社が投じたお金倉庫や仕掛け品など、まだ現金化されていないお金
業務費用在庫をスループットに変えるために使うお金人件費・設備・電気代など

ここが自分にはない視点だった。私が普段見ている指標は現場における指標で、経営層と話すときは純利益、ROI、キャッシュフローに変換し直す必要があったのだ。

そしてこの3つの実務的指標と財務指標の関係性は以下のようになる。

財務指標関係定義意味
純利益= スループット − 業務費用売上から変動費を引いた実際の稼ぎ会社が「お金を稼ぐ力」
ROI= 純利益 ÷ 在庫投じた資金をどれだけ効率的に使えているか投資の回収効率
キャッシュフロースループット・在庫・業務費用の結果現金が実際に増えたかどうか3指標の改善結果として現れる指標

「在庫」と「業務費用」の考え方が結構難しいが、

  • モノに形を変えて将来回収できるお金:在庫
  • 形にならず毎月消えていくお金:業務費用

のようなイメージ。

ソフトウェアに置き換えるとどうなるのか

製造業だと「在庫」とかは分かりやすいが、ソフトウェアに置き換えるとどうなるのか考えてみる。

スループット

基本的には現金化が完了した成果であり、売上計上済+実質的に回収済の案件ということになる。

  • 検収済みの案件の収益
  • 保守契約・サブスクリプション収入

在庫

支出がモノ(成果物・作業)に変わって眠っている(お金になっていない)状態。

  • 制作途中の案件
  • 納品済みだが未検収・未請求の案件

業務費用

「案件の有無にかかわらず毎月出ていくお金」。生産能力を維持するコスト。

  • 社員の給与(固定給)
  • 提案・営業活動費
  • 教育・研修・採用費用
  • サーバ・ドメインの維持費
  • オフィス賃料・水道光熱費

外注費の考え方

費用の種類分類理由
案件ごとの外注在庫案件がなければ発生しない、検収が完了すればスループットにつながる
契約社員など常時稼働業務費用案件の有無にかかわらず継続的に支出するため

4つ目の指標「投資」を考える

枠にはめるのが難しいのが「将来のスループットを増やすために投じたお金」、つまり投資である。

例えばスループットを上げるためにAIツールを導入したとすると、AIツールの利用料は基本的には「業務費用」に含まれる。

観点AIツール導入の効果指標への影響
作業効率向上同じ時間でより多く納品できるスループット増
外注費削減社内で処理できる範囲が拡大スループット増
自動化で人件費削減効率化によって残業代が減った業務費用減
ツール費増加利用料の支出業務費用増

AIツールの投資対効果は間接的に見ることができるかもしれない。

  • スループットが増えていれば、AIが売上・回転率を高めた可能性
  • 業務費用が減っていれば、AIが固定コストを減らした可能性
  • ROIが上がっていれば、在庫あたりの利益効率が改善した可能性

ただし、それは間接的であって、可能性を示すものでしかない。AIツールを「業務費用」とした場合、以下の式でもROIへの影響は間接的でしかない。

純利益 = スループット − 業務費用
ROI = 純利益 ÷ 在庫

たとえば同じ「業務費用」に分類される「オフィス賃料」が増えて、たまたま「スループット」が上がっているとオフィスの賃料が上がったことでROIが上がるというわけのわからない結論になる。

基本3指標(スループット・在庫・業務費用)では、投資の効果は間接的にしか見えない。

財務と経営の2つの視点

財務の視点で考える場合、基本は以下の式で考える。

純利益 = スループット − 業務費用
ROI = 純利益 ÷ 在庫

しかし、投資の効果を経営の視点で見たい場合は、式を以下のように1段拡張する。

純利益 = スループット − 業務費用
ROI = 純利益 ÷ (在庫 + 投資)

この場合、AIの利用料は「業務費用」ではなく「投資」に分類する。

とりあえず定義はこれで固まった。次はどこに制約(ボトルネック)があるかを特定する。

一応表で整理し直しておく。

指標定義目的・意味Web制作会社での例
スループット販売によって得られたお金 − その販売のために直接かかった変動費「お金を稼ぐ力」=売上から直接費を引いた純粋な稼ぎ。企業活動の成果を表す。請求・入金済み案件の売上 − 案件ごとの外注費・素材費など
在庫販売のために会社が投じたが、まだ回収されていないお金「お金が止まっている部分」。資金がモノ(成果物・作業)に変わって眠っている状態。進行中の案件、未請求分、作業済みだが納品前のデータ、未検収の外注費
業務費用在庫をスループットに変えるために継続的に支出されるお金「仕組みを維持するコスト」。案件の有無に関わらず発生する固定的支出。社員の給与、オフィス賃料、ツール利用料(Figma、GitHub、microCMSなど)、管理部門の人件費
投資将来のスループットを増やすために、一時的または長期的に投じたお金「未来の稼ぐ力を育てる支出」。短期的には利益を減らすが、長期的にはスループットを拡大する。自社テンプレート・フレームワーク開発、AI基盤整備、教育・研修、検証PoC、ツール開発費など