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MOMENT

2019年3月31日

本多孝好さんの小説第二弾。今回は「MOMENT」。

※普通にネタバレするので読む人は閉じてください。

病院の清掃員で働く大学生(今になって気づいたけど名前は出てこない)が主人公。 この主人公は結構真面目で、直感的に筋が通らないことは基本的に嫌いなタイプ。でもそれを人に押し付けようとはせず、その人の背景を慮った上で言葉にしているところが個人的には好きだ。 病院内で噂になっていた「死の間際に現れて、願い事を聞いてくれる必殺仕事人」と呼ばれる人がいて、主人公は当人ではなかったが図らずもいわば2代目の必殺仕事人のようなことをすることになる。 短編になっていて、一話ごとに一人のお願いを聞いてあげる。舞台が病院なだけあって当然全体的に生と死を中心としたテーマで構成されていて、 いろいろと考えさせられることが多い。たとえば、

普通ならば馬鹿げて聞こえる質問も、病院という閉鎖された空間では確かな現実感をもって耳に響いてくる。人は生まれ落ちたその瞬間から死に向かって歩き出す。普段は目を背けているその単純な事実を、ここでは否応無く意識することになる。

病院とは特殊な場所だ。病院の外と中は世界が違う。外と中では同じ言葉だとしても全く異なる意味を持つ。 「頑張れ!」といった励ましでさえも末期の患者には、嫌味に聞こえたりしてしまう。

自分の友人が死の間際にいるとき、自分はなんと声をかけるだろうか。きっと言葉に窮してしまうだろう。 もし自分が死の間際にいるとき、友人の言葉を素直に受けいれることができるだろうか。 それはその場面にならないときっと分からない。あきらかに死が近いことを知っている人が考えることはおそらくスピリチュアル的にも、科学的にも一般のそれとは違うのだと思う。

一番印象に残ったのはACT.3 「FIREFLY」 毎日のようにだれもいない自宅の留守電に自分で留守電をいれる悲しい女性のお話。 いろいろうまくいかなくて自分なりに環境を変えて頑張ってみたものの、結局は病にかかり死んでしまう。残酷なものだ。 病というものはその人がどんな人生を歩んでいたって関係なく襲いかかってくることがある。

どうしても生き延びたいかって言われたら、結構、そうでもないような気がするのよ。

という彼女の言葉に、なんとなく共感してしまった。しかし、同時に思い出したのは、 大学生の時に死んだ母親が入退院を繰り返していた時に、毎回絶対退院すると言っていたことだった。死ぬ1週間前にも同じことを言っていた。 それを思い出すたびに自分はなんて強い母親を持ったのだろうと思う。少なくても父親が生きている間は必死で生きないと。(必死で生きるという矛盾。)

デートを終わらせるのは女性の役目です。引き延ばすのが男の役目

というセリフに「11人がハイライト」していたのが面白かった。生死をテーマにした小説でもっとも線が引かれていたのがこの箇所で、 結局人は生とか死とか、よく分からないものには正面から向かい合うことはできないんだろうなと思った。 そういう自分も使える場面がきたらこのセリフ使おうと思っている笑

冒頭では

人は生まれ落ちたその瞬間から死に向かって歩き出す

とあるも、いろいろな人と過ごす中で、最後には

もうじき当たり前に冬がやってきて、春がやってきて、やがてその季節の中に有馬さんはいなくなるのだろう。それでも当たり前に夏がきて、また秋が訪れて、なんども当たり前に繰り返される季節の中に、いつか僕もいなくなるのだろう。やがて死んでいく人間なんてどこにもいはしない。そこにはただ、今を生きている人間がいるだけだ。

と言っている。人生は死ぬことではなく生きることである。自分もそう思う。

「正義のミカタ」の部長といい、今回の五十嵐先生といい、ラスボスっぽい人とのストーリーがかなり薄い気がするが、それが本多さんの切り口なのかもしれないなと思い始めた。 ちょくちょく出てくる幼馴染の森野を主人公とした「will」という本も出ているのでそのうち読もう。